低額譲渡に係る課税関係について
2024-09-27
カテゴリ:税務会計,法人税法,所得税法,相続税法
1.低額譲渡とは
「低額譲渡」とは税務的に見て「著しく低い価額」での譲渡を指します。
ではその著しく低いとはどの程度のことを指すのでしょうか?
著しくということは非常に曖昧でありますが、相続税法においては「譲渡価額に経済的な合理性がないことが明らかなもの」と規定がされており、税目としては相続税及び贈与税について適用されるべきところです。
また所得税法においては時価の2分の1未満での譲渡を著しく低いと指しています。
時価の概念についても通常の取引価額ということもあり、時価を算定することについても曖昧な要素が多く含まれています。
低額譲渡については税務上の取り扱いであり、税務当局側からすれば異常な取引により課税逃れをすることを防止するためにこの低額譲渡というものが設けられている趣旨を鑑みて低額譲渡について検討するのが良いと思います。
では、この低額譲渡に該当した場合にはどのような扱いになるのでしょう?
税務上は「通常の取引価額(時価)」により譲渡があったものとみなすこととなります。
「みなし譲渡」及び「みなし贈与」というものが発生することとなります。
2.低額譲渡(売主:個人、買主:個人の場合)
まず、売主=個人、買主=個人のケースを見ていきます。
例えば、土地を以下の条件にて譲渡したとします。
時 価 100,000,000円
取得価額 10,000,000円
譲渡価額 20,000,000円
のケースを見ていきます。
取得価額よりも譲渡価額の方が高いですが、譲渡価額と時価とを比較すると時価の2分の1未満であるため、低額譲渡に該当します。
<売主に係る課税関係>
売主には所得税法が適用されます。
まず、売主には所得税のうち、譲渡所得が発生します。
譲渡所得については20,000,000円△10,000,000円=10,000,000円に対して課税関係が発生することとなります。
ただし、個人の場合は譲渡価額が時価の2分の1未満の場合には譲渡損失は認識しない(所法59②)となっているため、譲渡損による通算はできないという規定となっています。
<買主に係る課税関係>
買主には相続税法が適用されます。
時価と譲渡価額の差額(100,000,000円△20,000,000円=80,000,000円)が贈与があったものとみなされます(みなし贈与)。
また、所得税法において、譲渡価額が時価の2分の1未満の場合は売主の取得時期及び取得費を引き継ぐ(所法60②、所基通60-1)となっているため、買主が次回譲渡する際には簿価は10,000,000円となります。
3.低額譲渡(売主:個人、買主:法人の場合)
まず、売主=個人、買主=法人のケースを見ていきます。
譲渡例については同様の条件、土地を以下の条件にて譲渡したとします。
時 価 100,000,000円
取得価額 10,000,000円
譲渡価額 20,000,000円
<売主に係る課税関係>
個人から法人への低額譲渡についてはみなし譲渡課税が発生します。
通常の譲渡所得として20,000,000円△10,000,000円=10,000,000円の譲渡益が発生する他
みなし譲渡所得として100,000,000円△20,000,000円=80,000,000円の譲渡益が発生することとなります。
<買主に係る課税関係>
法人税として時価と譲渡価額の差額について受贈益として認定され、益金として課税されます。
100,000,000円△20,000,000円=80,000,000円
また、同族会社の株式の価値がこれにより増加する場合には株主に対しても贈与税が課税されることになります。
3.低額譲渡(売主:法人、買主:個人)
次に、売主=法人、買主=子jンのケースを見ていきます。
譲渡例については同様の条件、土地を以下の条件にて譲渡したとします。
時 価 100,000,000円
取得価額 10,000,000円
譲渡価額 20,000,000円
<売主に係る課税関係>
法人が個人に低額で譲渡した場合、まずは通常の譲渡に対する譲渡益が発生します。
通常の譲渡所得として20,000,000円△10,000,000円=10,000,000円
次に著しく低額で譲渡した部分、100,000,000円△20,000,000円=80,000,000円については特定の個人に対する利益供与のような形となります。
【例】
・会社の役員に対して低額譲渡した場合
→役員給与として認定される可能性があります。これは通常の人にはその金額で譲渡しないものを会社の役員または会社の関係者だからこそ低額譲渡をされたという見方があります。
・会社の従業員に対して低額譲渡した場合
→給与認定または寄附金認定の可能性があります。
<買主に係る課税関係>
通常法人から低額で譲り受けることができないはずのところを、その立場から低額で譲り受けることができたのであればそれ自体が個人の所得となり得ます(法人からの贈与については一時所得として取り扱われます。)。
100,000,000円△20,000,000円=80,000,000円
4.低額譲渡(売主:法人、買主:法人)
実務上資本的支出か修繕費かの判断については迷うところではないでしょうか?
国税庁基本通達において以下のような文章があります。
法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の通常の維持管理のため、又はき損した固定資産につきその現状を回復するために要したと認められる部分の金額が修繕費となるのであるが、次に掲げるような金額は、修繕費に該当する。
→通常の維持管理、棄損部分の現状回復については資本的支出ではなく、修繕費として処理がなされます。
また、以下のような例示もされています。
・建物の移えい又は解体移築をした場合(移えい又は解体移築を予定して取得した建物についてした場合を除く。)におけるその移えい又は移築に要した費用の額。ただし、解体移築にあっては、旧資材の70%以上がその性質上再使用できる場合であって、当該旧資材をそのまま利用して従前の建物と同一の規模及び構造の建物を再建築するものに限る。
・機械装置の移設(7-3-12《集中生産を行う等のための機械装置の移設費》の本文の適用のある移設を除く。)に要した費用(解体費を含む。)の額
・地盤沈下した土地を沈下前の状態に回復するために行う地盛りに要した費用の額。ただし、次に掲げる場合のその地盛りに要した費用の額を除く。
イ 土地の取得後直ちに地盛りを行った場合
ロ 土地の利用目的の変更その他土地の効用を著しく増加するための地盛りを行った場合
ハ 地盤沈下により評価損を計上した土地について地盛りを行った場合
・建物、機械装置等が地盤沈下により海水等の浸害を受けることとなったために行う床上げ、地上げ又は移設に要した費用の額。ただし、その床上工事等が従来の床面の構造、材質等を改良するものである等明らかに改良工事であると認められる場合のその改良部分に対応する金額を除く。
・現に使用している土地の水はけを良くする等のために行う砂利、砕石等の敷設に要した費用の額及び砂利道又は砂利路面に砂利、砕石等を補充するために要した費用の額
